動物たちの不思議な生態の秘密
元動物園獣医師・ただいま五十三次どうぶつ病院獣医師、動物たちの不思議にせまります。
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つきまるにゃん

Author:つきまるにゃん
生き物を飼うことが
大好きな獣医師です。
いろいろな生き物に
“咬まれ・蹴られ・踏まれ・刺され”
こんな経験から
動物達の不思議な生態にせまります。

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動物達の不思議な生態の秘密
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2013.12.15_17:13

助平じじい


山の斜面の途中に座り込む『勘太郎』
そおーと僕が近づくと、
彼は僕に気づき、ゆっくりと立ち上がります。
そして、逃げようと歩き出しました。
しかし、小さな石がゴロゴロころがる急な斜面では、
勘太郎の痛い足ではうまく踏ん張れず、
足を滑らし80kgを超える巨体が山の斜面を滑り落ちていきました。

『勘太郎』は12歳、体重80kgを超え、
長さ70cm、何本にも別れた立派な角を持つ、
動物園では一番大きく威張っていた雄のニホンジカ。
山の斜面で展示していました。

ニホンジカの角は雄だけにあり、
春には抜け落ち、毎年生え変わります。
春から初夏に生え始めた角は、
秋にはりっぱな大きな角になり
その角を岩や木にこすりつけて、
角に被っている皮膚を剥き、先端を尖らせます。
秋はシカたちにとって恋の季節、
雄のシカは雌を奪い合います、
その時にこの角を武器として使い戦います。
雄同士の戦いの末、命を落とすこともあります。
動物園ではこのような事故を防ぐため、毎年冬になる前にこの角を切り落とします。
山の斜面に作った足場の悪いニホンジカ舎で、
僕たち2本足の人間には、
4本の足で自由に駆け回るニホンジカを捕まえるのは至難の業。
そのため麻酔で眠らせてから、捕まえて、角をノコギリで切り取ります。
しかし、麻酔といってもちょっと眠くなり座り込む程度にしかきかせないため、
ウトウトしたシカを4人ほどで力ずくで倒します。
ウトウトしていてもシカも必至です。
暴れるシカとともに山の斜面を転げ落ち、毎年怪我人がでました。
麻酔は麻酔銃を使用します。
麻酔銃の役は僕でした。
ものすごい速さで逃げるシカにあてるのは結構難しく、
せっかくいい位置に追い込んだシカを、
緊張のあまりはずしてしまい、みんなに怒られることもしばしば。
麻酔液と注射筒を無駄になってしまうため、はずすたびに大きな損失です。
ちなみに一回失敗すると数千円の損失です。
毎年シカの角切りは僕にとってちょっと憂鬱な仕事でした。
角切りを終えると、繁殖を防ぐため、雄と雌を別々の放飼場に入れます。

この年の夏あたりから、勘太郎の様子が少し変でした。
座っている時間が長くなり、
あんなに威張っていたのに、他の雄シカに追われることもありました。
12歳というと人間に換算すると80歳以上。
毛の艶も悪く、少し痩せてきた様子。
どうも足が痛い様子。
担当者と僕は『勘太郎』を捕まえて、診察することにしました。
その為に、僕はそーと近づいたのですが、
『勘太郎』は山の斜面を滑り落ちてしまったのです。
慌てて僕と担当は、ひっくり返ってばたばたしている『勘太郎』を抑え診察しました。
蹄の炎症と関節炎です。
痛みと炎症を抑える治療をしました。
勘太郎には「できるだけ動かず安静にしているように」と伝えました。
しかし、その後も足の状態は悪くなるばかり、
ついに立つことができなくなってしまいました。
残念ながらこれ以上治療法がありません。
今まで威張り散らしていたせいか、
今までの恨みか、
他の雄たちが、立てない勘太郎を、
寄ってたかって、角でつつきました。
このままでは命が危ない状態でした。
立てなければ交尾はできないだろうと、
雌の放飼場に移すことにしました。

雌の放飼場にいた6頭の雌は、遠巻きに「勘太郎」を見ていました。
いじめることもなくホッとしました。
しかし、立てない限り「勘太郎」の命は2週間、
とっても厳しい状態には変わりありませんでした。

翌日の朝1番、病院に担当のNさんがやってきました。
こんな時間にくるのは、よくないことに違いありません。
勘太郎がだめだったのか・・・・・・。
しかし、Nさんは笑いながら、
「いさちゃん、すぐ勘太郎見に来て」
※いさちゃんとは、僕のことです。
笑いながら?
いそいでニホンジカ舎に行くと、
勘太郎は立ち上がり雌を追いかけていました。
他の雄にいじめられても逃げられないほど痛かった足はどうしたの?
勘太郎には僕がおこなうどんな治療より、
雌に囲まれることにより、自分で足を治したのでした。
勘太郎はただの“助平じじい”でした。

僕たち獣医師は病気を治しているのではなく、
「生きようとする力」を
ほんのちょっと手助けをしているだけなのです。

翌春、勘太郎にそっくりなニホンジカが生まれました。




 









よろしくお願いします。



<五十三次どうぶつ病院  北澤 功>
 東京都大田区大森東1-5-2
 病院の診療時間 午前9:00~12:00  午後13:00~19:30
         日曜日は午後17:00までとなります。  
 休診日 月曜日
 


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