動物たちの不思議な生態の秘密
元動物園獣医師・ただいま五十三次どうぶつ病院獣医師、動物たちの不思議にせまります。
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つきまるにゃん

Author:つきまるにゃん
生き物を飼うことが
大好きな獣医師です。
いろいろな生き物に
“咬まれ・蹴られ・踏まれ・刺され”
こんな経験から
動物達の不思議な生態にせまります。

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動物達の不思議な生態の秘密
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2012.07.11_09:31

“キン太”

「ギャーギャー、ヒャーヒャー、キャーキャー」
動物園内にニホンザルの悲鳴が響きわたりました。
時々このような騒ぎはあるのですが、
この時はいつもの叫び声とは違っていました。
あわててサル山に駆けつけると、
サルたちは、2つある大きな岩の山の回りをグルグル回っていました。
彼らはなぜかみんな左回り、いつも同じ向きに回ります。
理由はわかりません。
いつもなら1分程で収まるのですが、
この時は騒ぎが収まるどころか、あちこちでケンカが始まり、
今までに聞いたことのないほどの叫び声が響きわたっていました。
サル山は、どこもかしこも興奮に包まれ、
地面には大量の柔らかいウンチが散らばっていました。
(ニホンザルは恐怖を感じると、肛門が緩みウンチを垂れ流します。
これをショック便と呼びます。)
そして、血痕もあちこちに。
ぐるぐる回っているお母さんのお腹や背中には、
子供たちがしっかりくっ付いています。
顔や足から血をながし、足を引きずっている者もいます。

そして、大きな山と小さな山の間の岩陰には、
倒れているらしきサルの足だけが見えていました。
その周りには比較的大きな血痕がひろがっていました。
血痕のまわりを遠巻きにして、
短い尾をピンと立て、口を大きく開け、
太く尖った犬歯を見せながら興奮気味の
実力NO2とNO4の♂ザルがウロウロしています。
いやな予感が、“キン太”がいません。
NO2・4がこんな状態の時は、
その前には大きな体を左右に揺らす“キン太”がいるはず。
誰の足かを確認するために、僕は移動しました。
足の持ち主は一際大きなニホンザルでした。
全身には多数の噛み傷があり、
両手、両足の指の何本かは噛み切られていました。
顔も酷く、両目は大きく腫れあがり、
唇もぱっくり割れめくれあがっていました。
腫れあがった顔からは、誰かはわかりません。
しかし、あの大きな体と、大きな○○玉(男にしかない玉)は
間違いなく“キン太”です。
“キン太”はこのさる山で実力NO1のボス。
どうもNO2とNO4が組んでクーデターを起こしたようです。
“キン太”は突然の反乱に敗れ、岩陰で大量に出血しながら倒れていたのでした。
ボスが敗れたため、群れの秩序が敗れたのか、群れ全体に不安が広がり、
さる山全体が興奮状態でした。

●「ボスザル

動物園のさる山で「『ボスザル』はどの子」とよく聞かれました。
強大な権力をもち、食べ物に優先権がありメスを独占し、
群れを外敵から守り、秩序を維持して群れをまとめ、常にみんなを守り、
みんなに信頼され一目置かれている、そんなボスはいません。
ニホンザルの群れには順位があり、ボスザルはその中で一番強いということだけです。
心配りなどせず、餌を見れば一番に食べ、お気に入りの♀がいれば交尾をする、
ただ力の強さから、威張っているだけです。
野生下では、餌が広いところにあるため、一人で独占は無理なうえ、
♀も自由に広い範囲を動きまわっているので、独占することもできず、
明確な“ボス”が存在しないことも多く、
全体の順位自体も飼育下よりずっとあいまいです。

●サル山の実際

餌を付けると、いっせいにサルたちが集まってきて、両手で餌をかき集め始めます。
すると、筋骨隆々で体が大きく、尾を上にピンとたてた、
1位(ボス)が悠々とゆっくり近づいてきます。
すると、餌を集めていたサルたちは、さっと場所を明け渡します。
ボスはドンと餌の真ん中に座り込みゆっくりと好きなものだけ思う存分食べます。
お気に入りのメスと子どもだけは近づいて一緒に食べることができます。
順位の低いサルは、餌がまかれるとともにできるだけ素早くかき集め、
順位の高いサルが来る前に、入るだけ口に詰め、
さらに両手で抱え込み、2足歩行で安全な場所まで運びます。
しかし、餌が少なかった時など、
順位の低いサルは、高いサルに口を無理やり手で開けられ、
頬袋にため込んだ餌中奪いとられることもあります。
ボスはたくさんの好みの♀と交尾し、♀を独占すると考えられていましたが、
DNA調べてみるとボスの子は意外に少なかったことがわかりました。
弱い♂もすきをみて交尾するし♀もそれを受け入れている現実がわかりました。
動物園などで飼われているニホンザルは、
豊富な餌があるため餌を探し回る必要がなく呑気で楽だと思われがちですが、
そんなことはありません。限られた空間で、
その上過密のことが多く、ささいなことによる個体間の争いが多いうえ、
逃げる場所がないなど、
力関係による順位は野生の群れよりずっとシビアな生活環境です。

●♀が強い

ボスになるためには、自分の力だけではなく、♀の力が必要です。
より強い♀の一族がバックにつくことにより一層地位が安定します。
逆にいくら大きく、力が強くとも♀の支持が得られなければ、
高い地位にいることができません。

●人間社会の縮図

☆閉鎖された群れ社会で一番になり、威張っているボス。
いざとなると、一番最初に逃げて行くこともあります。
☆戦えば強いのに、他のサルとは群れず、
いつもみんなとちょっと離れたところで過ごすクールなやつ。
☆いつもボスのそばでペコペコしグルーミング(毛づくろい)してボスの機嫌をとり、
権力のおこぼれに預かっているサル。
☆本当はボスより強い権力をもつメスのサル。
さる山を観察していると自分を見つけることができ、ちょっと悲しい。

●今までなぜリーダー的役割のボスがいると言われていたのか?

これは人間がつくりあげた幻想でした。本当は力に任せ威張っていただけでした。
こんなリーダーがいたらいいなという勝手な思い込みが、
サル山のボス像をつくりあげていました。

●野生のニホンザル

ニホンザルの群れは、基本的には数頭から数十頭の母系の集団です。
メスは生まれた群れで母親に守られながら成長し、
出産や子育ても同じ群れでおこない、同じ群れで一生涯を過ごします。
それにたいして、オスは生まれてから数年間はその群れで暮らしますが、
若者ザルと呼ばれる年齢になると、群れから出て行ってしまいます。
群れにいるオトナのオスのほとんどは、
違う群れからやってきたよそ者です。
群れは通常、ほぼ一定の範囲の森の中を移動しながら暮らしています。
他の群れとはできるだけ、重なりあわないように棲み分けています。
その範囲内で餌を求め群は移動します。
移動するときは、
♂のボスザルが「そろそろ場所を移動するよ」と決めて、
皆を引き連れて移動していたと思われていたのですが、
実際はそんなことはないそうです。
本当は、強いメスザルや若者サルが移動を始めると、
そこにみんなが何となくついていくようで、
群れを率いている本当の実力者、リーダーは♀なのかもしれません。
これを考えていると、日本だってまとめる力のない男のリーダーよりも、
女性の方がいいのでは・・・。

●“キン太”救出

園内に「さる山に全員集合」の放送が流れ、キン太救出作戦が実行されました。
集まった職員は、それぞれの手に網・デッキブラシ・竹ほうきなどをもち、
さる山に入りました。
周りのサルを追い払いながら、キン太に近づいてみると、
ゆっくりと胸が上下し、息をしていることがわかりました。
いそいで捕獲作戦実施です。
「行くぞ」の合図で、
ニホンザル担当者がキン太の両腕を掴み、網に入れ病院に運び込みました。
診察台の上で診察をすると、
顔を始め両足・両腕・お尻多数の噛み傷があり、
指も何本か噛み切られていました。
傷は全身で20か所を超え、傷口をふさぐため100針以上縫いました。
しかし、運よく傷は大きな血管を避けており、
命にかかわるようなケガはありませんでした。
しかし、“キン太”は次の朝を迎えることはありませんでした。
通常この程度の傷では死ぬことはありません。
“キン太”はケガで死んだというより、
クーデターによるショック、
NO1からの転落による精神的なショックが、
“キン太”から生きていこうという気持ちを奪い取ってしまったようです。
まだ20代の獣医師になりたての僕に“キン太”は、
病気やケガを治すのは、僕たちの治療行為だけではなく、
本人の生きていこうという気持ちが大事だということを教えてくれました。
どんなにケガでも生きようとする気持ちがなければ死んでしまいます。
逆にひどいケガや病気でも
生きようとする気持ち「生きる力」があれば助かることもあります。
僕は獣医師として生きる力をほんのちょっとお手伝いをしています。

“キン太”の犬歯はこのクーデターの数か月前から抜け落ちていたようで、
ケンカの時にする、犬歯を見せつける大きく口を開けた威嚇に、
あまり威力がなくなっていたようです。
威嚇のために大きく口を開けるのに、開けたはいいが犬歯の抜けたあとを
見せることになっていました。
そして、いつもキン太の横にいた♀のNO1が、
今回のクーデターの裏で暗躍していたという噂がありました。
キン太のいなくなったさる山では、
NO1の♂(NO2だったサル)の横に、
NO1の♀サルがいつも寄り添っていました。

<五十三次どうぶつ病院  北澤 功>
 東京都大田区大森東1-5-2
 病院の診療時間 午前9:00~12:00  午後13:00~19:30
 休診日 月曜日



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大福ちゃん

ブログの内容とは違う話になりますが…診察ありがとうございました。早目に診察に行って良かったです。前猫の二の舞を踏むところでした。
しかし、、、私の精神鍛錬が先のようです(−_−;)
帰宅して、牛乳パックを取り出すと、直様頂戴頂戴…水で薄めてあげたのですが、やはりわかる様で、抗議されてしまいました(^_^;)。
しかも、それも飲み干した上で、その後も、頂戴頂戴攻撃が続いております。゚(つД`)゚。
根比べ頑張ります○| ̄|_
はなわさび | 2012.07.14 15:26 | edit