動物たちの不思議な生態の秘密
元動物園獣医師・ただいま五十三次どうぶつ病院獣医師、動物たちの不思議にせまります。
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つきまるにゃん

Author:つきまるにゃん
生き物を飼うことが
大好きな獣医師です。
いろいろな生き物に
“咬まれ・蹴られ・踏まれ・刺され”
こんな経験から
動物達の不思議な生態にせまります。

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動物達の不思議な生態の秘密
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2015.12.10_13:05

僕の膝をツンツン


乳腺腫瘍の手術を終え、
緊張から解放された僕のお腹が“ぐ~”となった。

入院中のワンちゃん・ネコちゃんたちはお部屋に入って寝ていた。
手術したワンちゃんは酸素室で麻酔が覚めるのを待っている。
僕は、お気に入りの椅子に座り濃いコーヒーを飲んだ。
“トン トン トン”ゆっくりとした足音が 
レントゲン室から近づいてきた。
ずっと寝ていたマルチーズの「エリーちゃん」が、レントゲン室から出てきたのだ。
そして、僕の足下までくると、僕の膝を右前足でそおっとツンツン。
彼女はいつもレントゲン室のお気に入りの座布団で寝ている。
他のワンちゃんが僕に甘えるのを、遠くから見ているだけ。
日中は気配を消して、ひっそりとしている。
僕の診療が終わり、みんなが入院室に入り病院内の音がラジオだけになると、
レントゲン室からひょこひょこと出てくるのだ。

最近は歩くのも遅く、転ぶことも多い。
この日はいつもよりいっそう遅いような・・・
いすに座っている僕の足をツンツン。これは抱っこの合図。
僕は痩せて骨ばった彼女の身体をそっと持ち上げ、膝にのせた。
また軽くなったようだ。
頭の中に不安がよぎった。
膝の上の彼女は首を伸ばし、
長い舌で僕の腕をそっとなめて目を閉じた。
頭を撫でてあげると、膝の上で丸まり再びウトウト。
コーヒーを飲み終えた僕はエリーちゃんを膝からそっとおろした。
普段はめったに声を出さないのに、この時は珍しく、小さく消え入りそうな声で“ウワン”とないた。
そして、ゆっくりゆっくりと歩き出した。
爪が床に当たるポツ ポツと小さな足音がやけに大きく診察室に響いた。
彼女はレントゲン室に戻っていった。

入院室を見に行くと、手術を終えたワンちゃんが、麻酔から醒め元気に尻尾を振っていた。
これでひと安心。
僕は術着を脱ぎ、帰り支度をした。
バックを背負い、レントゲン室に向かい「おやすみ!」
エリーちゃんは頭をあげ僕を見て、再び“ウワン ウワン”。
頭を撫でるために近づくと、僕の手を静かに舐めた。

エリーちゃんは推定18歳、病院に来たのは昨冬。
飼い主のお婆ちゃんが入院するということで、病院で預かることになったのだ。
エリーちゃん自身も体調が悪く痩せこけていた。
栄養剤の点滴で彼女の状態は良くなったが、
お婆ちゃんは、退院の目途がつかないほど悪かった。
病院にきて2か月が過ぎたころ、お婆ちゃんが一時退院したという話を聞き、
僕はエリーちゃんを連れてお婆ちゃんに会いに行った。
部屋に入ると、エリーちゃんはバックから顔を出しキョロキョロと部屋を見回した。
そして、ベッドで寝ているお婆ちゃんを見つけた。
バックから出してあげると、たったったと軽快な足取りでお婆ちゃんに近寄り、
ピョンとベッドに飛び乗り、お婆ちゃんの顔の横に座った。
いつもはほとんど感情を出さない彼女だが、
すっかり毛が抜けてウインナーのようになった短い尻尾を精一杯フリフリしながら、
お婆ちゃんの顔をペロペロと何度もなめている。
エリーちゃんもお婆ちゃんも、とっても嬉しそう。
お婆ちゃんは優しい笑顔で頭を撫でる。
エリーちゃんはお婆ちゃんに甘え続けた。

1時間ほどお婆ちゃんの家で過ごした後、僕はエリーちゃんを抱き上げ再びバックにいれた。
「また来るから、早く元気になってね」
僕が言うと、声が出ないお婆ちゃんは、
僕とエリーちゃんを見ながら、手を合わせた。
涙が光っていた。

翌日お婆ちゃんは亡くなった。

エリーちゃんは、お婆ちゃんの所へ、保護犬としてやってきたのだった。
どこで、いつ生まれたのか誰も知らない。
お婆ちゃんの所に来る前も、飼い主さんが何人も変わったとのこと。
千葉で生まれたらしい、その後は東北で暮らしたこともあったようだ。
やっとたどり着いた安住の場所だったお婆ちゃんも亡くなったため、
僕が飼うことになった。

エリーちゃんはけっして声を出さない。
他のワンちゃんに追いかけられても、吠えられても、隅に隠れるだけ。
いつも静かに、誰にも迷惑をかけないよう、ひっそりとすごし、
できるだけ存在を消しているようだった。
大好きな座布団に他のワンちゃんが座った時も、
怒るわけでもなく、部屋の隅の冷たく硬い床に丸まっていた。
他のワンちゃんたちのように、もっともっと甘えればいいのに・・・
次々に変わる飼い主の顔色を伺って暮らす状況の中、静かしていること、できるだけ気配を消すことで、彼女は生きていく術を身につけたのかもしれない。
診療が終わった夜の、僕への前足ツンツンだけが彼女の精一杯の甘えだった。

翌朝、寝坊をした僕に看護師さんから一本の電話が入った。
「先生 エリーちゃんが・・・」
僕は慌てて病院に行った。
エリーちゃんはお気に入りの座布団の上で、いつも通り丸くなっていた。
そして、眠ったまま二度と頭を上げることはなかった。

数奇な運命を送ったエリーちゃん。
病院での生活はどうだったのだろう?
エリーちゃんが亡くなって2週間程がたった。
「あれ、エリーちゃんは?」
「この服、エリーちゃんに似合うかと思って持ってきたんだけど、
エリーちゃんいないの?」
たくさんの患者さんに尋ねられる。
僕が思っていた以上に、エリーちゃんは皆に愛されていたようだ。
今も毎日たくさんの犬が僕の足元でじゃれて甘えているが、あの遠慮がちなツンツンが無性に懐かしい。





<五十三次どうぶつ病院  北澤 功>
 東京都大田区大森東1-5-2
 病院の診療時間 午前9:00~12:00  午後13:00~19:30
         日曜日は午後17:00までとなります。  
 休診日 月曜日

  年末年始休診のお知らせ 
12月29日(火)の診療は通常通り行います。
12月30日(水)~1月4日(月)まで休診となります。



  1月10日(日)の午前中 北澤院長は研修会出席のため不在となります。
  午前中の診療は研修獣医師が対応します。
  午後からは通常診療します。 
 
  今後   2/7(日) 3/6(日)の午前中も
  院長研修会出席となります。 

  ★ もう一つのお知らせ

  辰巳出版の 日本犬専門マガジン!
  Shi-Ba(シーバ) 
  に連載始めました。
 “毎日事件発生!? マニアな視点で診察中
  北澤先生のおもしろ動物病院”
 
 本屋さんで見つけたら読んでください。

  
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