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動物たちの不思議な生態の秘密
元動物園獣医師・ただいま五十三次どうぶつ病院獣医師、動物たちの不思議にせまります。
プロフィール

つきまるにゃん

Author:つきまるにゃん
生き物を飼うことが
大好きな獣医師です。
いろいろな生き物に
“咬まれ・蹴られ・踏まれ・刺され”
こんな経験から
動物達の不思議な生態にせまります。

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動物達の不思議な生態の秘密
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お父さんのパジャマ

鍵のかかっていないマンションの玄関を開けた。
「こんばんは」
診療終了後、僕は佐藤さんの家へ向かいました。
往診依頼です。
「先生どうぞー」
何回か通っている僕は、
玄関で靴を脱ぎ、廊下の一番奥にある居間に向かいました。
居間のドアを開けると、
お母さんが、大きな窓の前に置いてあるソファーの横に座っていました。
お母さんは、にこっと微笑み、ソファーの上のネコの耳をモミモミしていました。
木枠でできた少し大きめのソファーの上
“ミーちゃん”はいつものように丸まっていました。
ソファーの上にはクッション、
その上にはご主人の藍色のシワシワのパジャマ、
そして、その上に痩せて骨と皮だけのミーちゃんがいました。
弧を描くようなヘの字の目、安心しきって幸せそうな顔のミーちゃん。
時々動くお腹が生きている証です。
その場で、聴診、元気なことを確認し、
背中にたっぷりの輸液をしました。

ミーちゃんと僕の出会いは5年ほど前、
お父さんが、ウンチが出ないということで、
8kgのおデブネコのミーちゃんを病院に連れてきたのです。
証券会社勤務だったお父さん、
定年を迎え自宅で金融のコンサルタントをしていました。
コンサルといっても夫婦2人の佐藤さん、
近所の人たちの定年後の相談程度の仕事でした。
ミーちゃん同様、お父さんも見事に太っていました。
現役時代は日付が変わってから家に帰ることが多い激務だったらしく、
不規則な食事とお酒でこんな体が出来上がったと言っていました。
みーちゃん、浣腸をするとびっくりするほど大量のウンチが出ました。
その後、消化性のいい便秘猫用ゴハンを処方、
おやつを一切やめてもらいました。
ダイエット指導をしました。
その後、お父さんとともに、時々病院に来ました。
2人とも少しづつではありますが、痩せてきました。

20年前の大雨の夜、も
お父さんが酔っ払って帰宅時、
びしょ濡れでやせこけた猫がマンションの植え込みの前にいたそうです。
お父さんを見て小さな声でミャーと鳴きました。
耳はカットされていました。
不妊手術されていた証拠です。
それがミーちゃんです。
今まで動物など飼ったこともなく、興味もなかったお父さん、
何故か運命を感じそっと抱きあげ家の中に入れました。
洗面所に行き自分のバスタオルを持ってきて、
目ヤニと鼻水、泥だらけの体を拭いてあげました。
そして、冷蔵庫の中から牛乳を出し自分で電子レンジで温めました。
家に帰ると全く何もしない、
靴下は脱ぎっぱなしのお父さん、
家のことは、すべてお母さんがやっていました。
どちらかというと神経質で、きれい好きな人なのに、
何もしないお父さんが、
スーツを着たまま汚れたミーちゃんのお世話をしていたのには
驚かされたとお母さんは言っていました。

佐藤家にきたミーちゃんは
朝は玄関マットの上で、きちんと前脚をそろえて、お父さんを見送り
夜、ミーちゃんが、玄関に行きマットの上に座ると、
1分ほどで玄関のドアが開き
お父さんが帰ってきました。
ミーちゃんには家に帰ってくるお父さんの足音がわかるようでした。
お父さんはスーツを脱ぎ、食事をします。
ミーちゃんはお父さんの横に座り、
ミャーと甘える声でお父さんのおかずをねだります。
他人とのお鍋は嫌がるほど潔癖気味なのに、
ミーちゃんには自分のはしでおかずをあげていました。
食事を終えると、
お風呂に入り、藍色のパジャマに着替え
ソファーに座り、
大きな窓から見える、羽田から飛び立つ飛行機を見ながら
焼酎のお湯割りを飲み始めます。
ミーちゃんは、お父さんの太ももにピョンとのり、
ゴロゴロ。
お父さんの右手はグラス、左手はミーちゃんの耳をモミモミ、
3杯目を飲み終わる頃には二人でうとうとしている毎日でした。
休みの日も、お父さんは用事がない時は一日中藍色のパジャマのまま
ソファーでお酒を飲んでいました。
膝にはミーちゃんでした。

2年前、お母さんが買い物から帰ってくると
ミーちゃんが今まで聞いたことのない程の大声で
みゃーみゃーと鳴きながら、
玄関に来ました。
お母さんの姿を見ると、
走って居間に向かいました。
そして、ソファーに座っているお父さんに飛び乗りました。
しかし、お父さんは全く動きませんでした。
天国に行ってしまったのでした。

お父さんがいなくなってから、
ミーちゃんは家の中を、
ミャーミャー鳴きながらいつまでもいつまでも
お父さんを探しました。
お母さんが抱っこしてもすぐに飛び降りてしまいます。
49日も済ませ、
お母さんはお父さんの荷物整理をしていた時、
お父さんが着ていたパジャマが出てきました。
まだ洗濯もしていなかったので、
洗濯かごに入れると、
ミーちゃんがピョンと洗濯かごの中に入り、
中でゴロゴロ、そしてパジャマをフミフミ。
ひとしきりフミフミをした後は、小さく丸まって静かに目を閉じました。
お母さんが何度追い出してもピョン・・・。
そして、ゴロゴロ、フミフミ・・。
何回か、お母さんに追い出されると
ミーちゃんは今度はパジャマのズボンをくわえて
窓際のソファーに行きました。ソファーに飛び乗ると、
パジャマの上ですやすや。

あれから2年、パジャマは薄汚れ、
ミーちゃんの目はほとんど見ず、骨と皮だけの体になりました。
そんなミーちゃん、
トイレとゴハン以外はソファーの上でお父さんと一緒にいます



<五十三次どうぶつ病院  北澤 功>
 〒143-0012 東京都大田区大森東1-5-2
 病院の診療時間 午前9:00~12:00  午後13:00~19:30
         日曜日は午後17:00までとなります。  
 休診日 月曜日

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