動物たちの不思議な生態の秘密
元動物園獣医師・ただいま五十三次どうぶつ病院獣医師、動物たちの不思議にせまります。
プロフィール

つきまるにゃん

Author:つきまるにゃん
生き物を飼うことが
大好きな獣医師です。
いろいろな生き物に
“咬まれ・蹴られ・踏まれ・刺され”
こんな経験から
動物達の不思議な生態にせまります。

フリーエリア
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
動物達の不思議な生態の秘密
リンクフリーです。
バナー
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム
QRコード
QR

--.--.--_--:--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


おしゃべりなモルモット

「キュルルル~キュルルル~、キュイッキュイ」

夕方たくさんの牧草と野菜を入れたバケツをもってモルモット舎に近づくと


43匹のモルモットたちがいっせいに僕につぶらな瞳を向け、鳴き出しました。
動物園勤務の頃、担当者が休みの時は、僕がモルモットのお世話をしていました。
そして、寝室に餌を準備し展示室と寝室の間のドアを開けると、
モルモットたちは

「キュリキュリ、グルグル、クイックイッ」

おしゃべりをしながら一列に隊列を組み、
仲良く寝室に帰るスロープの上を歩いていきます。
モルモットはみんなのんびり屋の仲良しです。
そして、群れで生活するモルモットはおしゃべりが大好きです。

お腹が空いたとき  「キュイッキュイッ」

愛を語る時 「ルルルルル~」

抱っこしてもらいたいとき 「ブウィブウィブウィ」

無理に抱っこされ、いやな時、怖い時 「キー!キー!」

モルモットはたくさんの声をもっていて、とっても感情表現が豊かです。

ある時、モルモットを飼い始めて1か月という飼い主さんが
『うちの子、お尻に触れると鳴くのですが、うれしいの?怒ってるの?』
とたずねました。
実際にこの子のお尻に触れてみると確かに

「グルグルグル」と鳴きました。

「グルグル」はうれしい時に発することが多いのですが、嫌な時も出します。
そのままおとなしく触らせてくれたら“うれしい”
逃げだしたら“嫌”なのです。

無口なハムスター
ハムスターはほとんど鳴きません。
ハムスターは縄張り意識が強く1人で生活するため、おしゃべりの必要がありません。
声をだすのは、びっくりした時、怒った時、怖い時、苦しい時、痛い時です。

ペットショップで、一つのケージにたくさんかっていると
「ジッジッジッジ」
と鳴いていることがあります。これは喧嘩のための威嚇です。

いきなり抱っこされて
「キーーーー」
これは恐怖の悲鳴です。

呼吸に合わせ変な音
「プスップスッ」
の時は呼吸器の病気のことがあります。

僕はあったことないのですが
“おしゃべりな子” “寝言をいう子”もいるらしいです。

キリンも鳴く
キリンはほとんど鳴きませんが、僕は聞いたことがあります。
鳴きます。
僕が聞いたのは子どものキリンの声でした。
朝、一足先に放飼場に出て行ったお母さんを呼んだのか

「ボヲー」と2度鳴きました。

鳴き慣れていないのか“不器用な牛”のような鳴き声でした。

牛の声は「モーーーー」

長く遠くまで届く綺麗な声です。

モルちゃんと仲良くなろう!
モルモットはとっても怖がりでさびしがり屋
そして、のんびりでおっとり屋さん。
愛情たっぷり優しくお世話しましょう。
小さいころから優しく抱っこをしていると、
とっても抱っこの好きなモルちゃんになりますよ。
ただし、無理に触ろうとしたり必要以上に追いかけたりするとストレスが溜まります。

抱っこの仕方ですが、必ず4本の足を自分の体にくっ付けるようにしてください。
立って抱っこをするときは、
モルモットのお腹と自分のお腹をくっつけて、
座っているときは膝の上にのせてください。
足が空中にういてブラブラしているととっても不安で暴れてしまいますから。

やがて、愛情をこめてお世話をしていると、
飼い主さんの顔を見るとおしゃべりを始めるようになります。

そしていつかは繁殖!
モルモットの赤ちゃんは生まれた時から、毛も歯も生えて目も開いています。
大人と同じ格好で生まれ、大人のミニチュア版とってもかわいいです。

愛情たっぷりにせっせとモルモットの世話をしていると、
やがて、モルモットたちは僕に
ルルルルルー愛の歌を歌い始めました。

僕の モテキ 到来でした。

ただし、この求愛はどうも  が  にたいして歌うようで・・・・。

<東京都大田区大森東 五十三次どうぶつ病院 獣医師 北澤 功>




気に入ったらクリックお願いします


スポンサーサイト

2012.02.18_10:16
ふぇ~っくしゅん

今年一番の寒い日ことでした。
朝の掃除を終え、甘いチョコを食べながら朝のコーヒーを飲んでいると
いつもはしっぽを振り振り、リードを引っ張りながら元気いっぱい病院にやってくる
ポンちゃんが、フリースの毛布に包まれ、
お母さん(ポンちゃんの飼い主さん)に抱っこをされてやってきました。

ポンちゃんは今年7才の女の子、体重1.5kgの小さなチワワです。

僕は笑顔で「大丈夫?」優しく声をかけました。

「大丈夫なわけありません」いきなり怒られる僕でした。
この日のお母さんは、モコモコのダウンに毛糸の帽子を深々かぶり、サングラス
元気もなくちょっと不機嫌。
「どうしました?」
「おとといの夜から元気がないの。鼻水は垂らすし、
昨日はちょっとしかごはん食べなかったのに、そのごはんも吐いちゃったのよ」
「そしてね、ずーとあたしにくっついて離れないの」

すぐに診察台の上に乗せました。
親指でそっと耳に触れると、寒い外から来たのにもかかわらず、
ほんわりと温かくお熱があることがわかりました。
このやり方はお熱を確かめる一番簡単な方法、
普段から耳の内側を親指で触っていると、
お熱が出るとわかるようになりますよ、おすすめです。

体温計で体温を計ると確かに熱がありました。
どうやら風邪をひいたようです。
そのことをお母さんに伝えると、

「え、ワンちゃんも風邪をひくの?あたしの風邪うつったかしら。
あたしも先週からずーと鼻水が止まらないの。今も頭痛いのよ」

「へ~っくしゅん」お母さんは大きなくしゃみをしました。

直ぐに診察台に乗ってもらい、僕はそっとお母さんの耳を指で触れて・・・・。
これは“うそ”ですよ。

ワンちゃんも風邪をひくの?
風邪は呼吸器系に病原菌が入り込み悪さをする総称。
お腹にはいり胃腸に悪さをするのは、お腹の風邪とも呼びます。
人間の風邪の症状は、頭が痛い・熱が高い・寒気がする・鼻水が流れる
喉が痛い・咳が出る・食欲がない・下痢をする・吐いてしまうなどです。
ワンちゃんも病原菌が体の中に入り込み、その菌が悪さをすると、
やっぱり咳や鼻水、高熱、下痢、吐くなど人間と同じ症状が出ます。
ワンちゃんも風邪をひきます。

人間界では、インフルエンザがはやっているようですが、
ワンちゃんの今冬の症状は熱と吐くことが多いように感じます。
人間の風邪は犬にはうつりません。人間は人間同士、犬は犬同士でうつしあいます。

小さく体力のないポンちゃんは、風邪による高熱でぐったりしていたのでした。
肺炎になる恐れもあるため、すぐに治療を始めました。

ネコも風邪ひくの?
ネコもひきますよ、ネコにはとくに症状を悪化させる2つのウイルスがあります。
症状はクシャミ・目ヤニ・鼻水・ヨダレ・高熱です。
ネコの風邪もやっぱり犬や人間にはうつりません。
犬もネコも年1回のワクチンの接種によりだいぶ発症を抑えられます。
ワクチンは絶対おすすめです。

チンパンジーも風邪をひく
チンパンジーも風邪をひきます。
ある日チンパンジーのミセスが風邪をひきました。
彼女は風邪をひくと床暖の入った一番暖かいところで、
麻でできた袋を体にかけてひたすら寝ています。
僕は毎日往診に行きました。
まずは、胸と背中を聴診します。
次は大きく口を開けさせ喉を見ます。
そして口の奥をのぞきこんでいた時でした、

「ふぇ~っくしゅん」

彼女は“ドリフのカトちゃん”ばりの大きなクシャミをしました。
彼女の鼻水・ヨダレすべてを顔全体で受け止めました。
僕は真剣に何かを見るとき口が半開きになるくせがあります。
口の中にも大量のいろんな液体が飛び込んだのでした。
予想通り、翌日から僕の鼻からは大量の液体が流れ出るようになり、
体中がだるくなりました。
そして彼女の風邪はすっかり良くなりました。
風邪を治すには人にうつすが一番。
チンパンジーの風邪は人間にうつります。体験しているので間違いないです。
ミセスはクシャミのあと、僕を見てニヤッとしました。
まさか狙っていたのでは。

3日間後ポンちゃんは、
ナチュラル化粧にストールをまいたオシャレなお母さんを、
ぐいぐい引っ張りながら病院にやってきました。
お母さんもポンちゃんもすっかり元気。
お母さんはいつもの優しい笑顔と声で

「おはよう先生」

そして僕の鼻からは大量の鼻水がたらーり
人間から人間はうつります。

<東京都大田区大森東 五十三次どうぶつ病院 獣医師 北澤 功>




気に入ったらクリックお願いします



注意 
今回は非常に危険な描写があります。
食事をしながらの閲覧はおやめください。
   



「うぇっうぇっうぇ」
僕の愛猫「ロン」が背中をまるめ、首を伸ばしながら、

口から茶色い ツブ ツブ を吐き出しました。
やや太り気味で食いしん坊のロンは、
お皿にキャットフードを出したとたん、

「シャンシャンシャン」首につけた鈴を鳴らしながら
すごい速さでやってきます。

そして「ガフガフガフ」と一気に口の中に流し込みます。
食べているというより、流し込むという感じ。
そして、その後すぐ

「うぇっうぇっうぇ」です。
ほとんど原型のままのキャットフードが、お皿の横に広がります。
次はそのお皿の横の、自分の口から出たものを、再び口の中に。

今度はそれを見ている僕が「うぇ」です。

ロンは“食いしん坊”という病気。
だれも横取りしないのに、食いしん坊猫は、
食べ物をあわてていっきに食べ、よく吐きます。
その後ケロっとして、再び食べたり、
前足を舐めながら、口の周りや顔を撫でるなど
落ちついている時は問題ありません。

他にも、体を舐めて手入れをするネコちゃんはどうしても毛を飲み込んでしまうことがあり、
この胃の中にたまった毛を出すためにやはり吐きます。

そして必ず “毛と胃液と消化された食べ物のMIXされたもの”は、

「ここでは吐かないで」と思ったところで吐きます。

もう一匹の愛猫の「ラン」も「ウェッ」のそぶりをすると、
僕はあわてて処理しやすいフローリングに連れて行くのに、

吐く時わざわざジュータンに移動して「ウェッ」。
ジュータンの上で吐かれると、
茶色い液体の色や独特の酸っぱい臭いが、なかなか取れずえらい苦労をします。
吐いた中に毛玉があるようでしたら、病院に相談してください。
良いお薬ありますよ。

ワンちゃんも散歩途中で草を食べ「グウェ」。
食べ過ぎで「グウェ」。
味の濃い物で「グウェ」。
よく吐きます。
その後元気よく走っていたら問題ありません。

吐く動物の代表いったら
牛はいつも胃から口に吐き戻した餌を、

「クチャクチャ」しています。
牛さんがいつも何か食べているように見えるのはそのためです。
絶対 おいしいはずはないのに、なぜ吐き戻してまで食べるのか?
僕には絶対できません。
牛さんは、進化として、他の動物が食べない、
非常に消化しにくい繊維質をもつ草を食べることより大量の餌を確保しました。
しかし、繊維質をただ食べても消化しなければウンチとしてでるだけのため、
消化する方法として、何回も吐き戻して消化することにしました。
4つの胃を持ちその中でバクテリアを飼う牛さんは、
その胃の中で、バクテリアたちによる発酵という形で繊維質を分解します。
しかし、いくら優秀なバクテリアたちでも、大きいままの草では分解できません。
そのため分解できなかった草を再び口に戻して、
バクテリアが分解できる大きさまで、歯を使いスリスリとすり潰します。
それを再び胃に送りバクテリアさんに再度分解してもらいます。
分解できるまで何度でも、口に戻しスリスリ。

動物園勤務の時よくアシカ池にホースを投げ込みました。
カリフォルニアアシカのアスカは遊びごころいっぱいの女の子、
彼女はホースで遊ぶのが大好き。
40cmほどに切ったホースをアシカの池に投げ込むと
彼女はそれを口に咥えて、僕のいる外に投げ出すのでした。
この遊びは僕も大好きでした。
ある時のこと、いつものようにホースを投げ込んだのですが、
そのホースがかえってきませんでした。
あれおかしいなと思っていると、

「この子ホースを飲んじゃったよ大丈夫?」
アシカを見ていたお客さんが教えてくれました。

僕は一瞬のうちに“ちびまる子ちゃんのガーン”状態 
僕の顔には縦線がいっぱい。
つまるのかな? 

僕の頭の中は
「ホースが腸につまり、そこに餌のホッケが絡みつき、腸閉塞」
ガーン
直ぐ取り出さなくては、でもどうしたらいいの?
緊急手術、手術前にレントゲン、デカすぎてとれないな、
水を全部抜かなきゃ、これだけで水道代高いんだろうな、
手術した後水なしで大丈夫かな・・・。
ありとあらゆることを想像して、ガーン。
そんな池の前でボー然としている僕の前を、アスカは優雅に泳いでいました。

そして、目の前で「アゥ」と一声あげた後、
首を伸ばし口の中からホースを吐き出し、
僕に向かいニヤと笑いかけました。
それはまるで、小学生の頃見た

「びっくり人間大集合」の飲み込んだ金魚をお腹をクイックイと横に振った後、

ポンと叩き生きたまま金魚を出す「金魚おじさん」のようでした。
カリフォルニアアシカはこんな芸ができるのでした。
 
吐く動物で一番恐ろしいのは
オランウータンのキッキ
反芻動物でもないのに、オランウータンは食事後、

お腹を膨らましたかと思うと 「ウップ」と腹圧を器用に使い、口の中に戻します。
それを、再び食べたり、壁に塗ったりと自分のゲロで遊びます。
キッキは自分の楽しみのために自由に吐き戻せるのです。
そして時々、治療を終え帰ろうとした後ろを向いた僕の頭に向け

“胃と口の中でドロドロと液体状にしたそれを”
口をとがらせ水鉄砲のように器用に飛ばすのです。
怒った僕は頭にゲロをのせたまま振り向き,


「こらー」、
振り向いて怒ることを予測しているキッキは、
今度は顔面に向け、口の中に残しておいた半分を再び僕の顔面に・・・。
僕のメガネは酸っぱい液で覆われ何も見えません。完全に僕の負けです。
3度目の攻撃を避けるため、僕はその場を逃げるしかありません。
キッキはゲロを武器としてつかうのでした。

ちなみにウサギは吐きませんよ。

 私見ですが、今回登場の動物のゲロの臭い順位
 4位 犬 3位 ネコ 2位 牛 
1位 オランウータン
 


夜中にブログを書きながら、甘いスイーツが楽しみな僕も今回はさすがになしです。



<東京都大田区大森東 五十三次どうぶつ病院 獣医師 北澤 功>




気に入ったらクリックお願いします



2012.02.03_15:07
注射を打たれる

『おはよう』
僕はいつものように胸に飛び込んできたアサコを ハグ しました。

ハグの最中彼女はいつも、僕の耳に、フカフカの “やわらかい唇” で、やさしく触れます。
すごくくすぐったいのですが、
彼女のために、僕はじっと我慢です。
その後、パンとフルーツと牛乳とヨーグルトの朝食です。


お腹もふくれ、落ち着いたところで
僕はいつものように彼女に注射器を見せました。
彼女は顎と腕と足に大けがをしていました。
「さ、注射だよ、背中を見せて」
すぐに、彼女は僕に背中を向けました。
「注射するよ、ちょっと痛いけどがまんしてね」

前日までの彼女は、おとなしく注射をさせてくれていたのですが・・・。
この日は、背中に注射針があたった瞬間、
彼女の右手が伸びてきて、僕の手を掴みました。
手を掴んだまま、振り向き、
反対の手で、僕の手から注射器を奪いとり

そして、向かい合った僕の肩に グサリ  

彼女は僕に注射を打ちました。


アサコはチンパンジー、この時は4歳でした。


彼女の母親は彼女を生んだ時に、子育てを放棄してしまい、
仕方なくアサコは僕たちの手で育てていました。
同じようにお母さんに育児放棄された、
オランウータンのフジコと一緒に姉妹のように育てました。
僕は毎日アサコとフジコの2人にミルクを与え、おむつを替え、一緒に遊びました。
僕と彼女たちは親子となりました。

しかし、いつまでも人間の中で暮らすことはできません。
それぞれ、いつかはオランウータン・チンパンジーの中で生活をしなければなりません。
そこで、恋をしたり、ケンカしたりしながら、パートナーを見つけ、
家族をつくることにより始めて50年近い人生を幸せに過ごすことができます。

アサコも4歳になり体力もついたため、
いよいよ、お母さんやお父さん、家族のもとに返すことにしました。
返すといっても群れで生活する賢いチンパンジーは、
血がつながっていようとも、簡単には仲間と認めてくれません。
チンパンジーの群れには、生活していくためのルールがたくさんあります。
僕たち人間ではそのルールを教えることができません。
できるだけ早い時期に仲間のもとにもどし、
群れで生活するためのルールを学ばさせなくてはいけません。

この時期のアサコは、オランウータンのフジコといつも一緒だったためか、
自分はオランウータンだと思っていたようで、
チンパンジーの姿を見ると非常に怖がりました。
逆にフジコはチンパンジーだと思っているのかオランウータンを怖がっていました。

まずは一緒に生活する前に、チンパンジーに対しての恐怖心をなくさせるため、
数か月かけてお見合いをしました。

そしていよいよ、家族と同じ部屋にいれることにしました。
アサコをまずは先に大きなお部屋にいれました。
次に他の家族を入れるのですが、
お父さんのサトシはいつもと違う雰囲気を察知し、
一緒になる前から、壁を蹴り、ドアを殴り、雄叫びをあげていました。

アサコのいる部屋のドアをあけると、

ドン ドン バン バン  ドン ドン


『ウーホッホッホッホッホ』

サトシは最高潮の興奮のもと部屋に入ってきました。
アサコを見つけるなり、口を大きく開け雄叫びをあげながら、
アサコの所に突進していきました。
びっくりしたアサコはあまりの恐怖に、
大きな口をあけ叫び声をあげました。

『ギャー』

そのままアサコは顎を噛み砕かれてしまいました。

そして逃げようとするアサコの足と腕にも「ガブリ」

ものすごい力で噛みつきました。
ものの数秒の出来事でした。
僕たちは、大慌てで水圧をかけたホースの水をサトシにかけ、部屋から追い出しました。

アサコはというと、部屋の隅で「ギャー ギャー」叫び続けていました。
僕が近づいてもパニックのためか、血を流しながら逃げてしまいます。

「アサコ・・アサコ・・」名前を何回か呼ぶと、
やっと、僕だと気付いたのか抱きついてきました。
顎は砕かれブラブラ、腕と脚の皮膚は大きく引き裂かれていました。
直ぐに緊急手術です。
顎はワイヤーで縫い付け、
噛まれた傷は5か所ほど100針以上縫合しました。
幸い傷は大きな血管を避けていたため、
何とか一命をとりとめることができました。

チンパンジーの最大の武器は犬歯、
鋭く太く尖った犬歯を見せつけることは戦いの合図です。
サトシは威嚇の意味をこめて、大きく口を開きアサコに犬歯を見せつけたのでした。
チンパンジーのルールでは無駄な争いを避けるため、戦う意思がない時はお尻を向け、
「あなたにはかないません、戦う気はありません」という意思表示をします。
逆に口を開け、犬歯を見せるということは、戦うぞという意味になってしまいます。
アサコの恐怖の叫び声は、大きく口を開けることとなり、
犬歯を見せつけることになってしまったのです。

ワンちゃんも一緒です。
「う~」
怒っている時は、口を少し開き、唇を上げて犬歯を相手に見せつけます。
映画“バイオハザード”のワンちゃんが怖いのは、皮膚が剝けて筋肉が見えているのと、
大きく鋭い犬歯が見えていることにあります。
犬歯を見せているワンちゃんに、
僕たちが、戦う意思がないよと“微笑みながら”近づいても、
微笑んでいるはずの口元から見える歯によって、戦いを挑んでいることとなり、

ガブリと噛みつかれます。
犬歯が見えたら近づかないことが一番。

手術後は、ケガの治療のため毎朝注射をしていました。
注射が治療とわかっていたのか、
注射器を見せるとすぐに背中を向け素直に注射を打たせてくれました。
それなのに、手術から3週間ほどたち傷口もふさがり、
そろそろ抜糸でもと考えていたころに、

『あの事件』が起こったのでした。

アサコは僕から注射器を奪い、僕の肩に注射をしたのです。

その後のアサコは、サトシとは一緒に過ごすことはありませんでしたが、
他の仲間と一緒に生活し、今は中国の動物園で新しい家族とくらしています。

ムツゴロウこと“畑正則”さん、
ライオンに咬まれて有名な“松島トモ子”さんなど
動物に咬まれた人はたくさんいると思いますが、
動物に注射を打たれたことのある人間は、たぶん、世界中で僕だけです。

<東京都大田区大森東 五十三次どうぶつ病院 獣医師 北澤 功>




気に入ったらクリックお願いします








上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。